前回のブログ投稿から半年近く経ってしまいました。実はこの記事は3月に出したいなと考えていたのですが(今いつよ)、取り上げたい話に使う例文の用意にも時間を取られ、仕事やボランティアも忙しく優先順位は下がるばかり…。やぁっと公開です(例文作成に数か月かけた)。

昨今、兎にも角にも、機械翻訳の台頭と精度向上により、人間翻訳の仕事は減るばかりなのではという話がよく聞かれますね。この時代、そうした中で翻訳を仕事に食べていくにはどういうことができるかなと私もよく考えます。今年の1月に公開した記事では、拙い訳ですが例を交えて、マーケティング分野の一部にあたる翻訳を例に人間翻訳と機械翻訳について比較してみました。その数週間後に受けたトライアル翻訳で、これもその比較に良い例だなというものがありましたので、紹介させてください。今回は一般ビジネス翻訳から、ビジネスレター/メール文を取り上げます。

以下、原文と訳文を掲載していますが、実際に私が受けたトライアル文ではありません。スタイルはそのままに、内容をまったくの別物に作り変えています。訳文はあくまで私なりの訳例です。今回は訳例のほか、機械にはできない文書の体裁調整やビジネスレターの文化も含めて全体を比較してもらえたらと思います。

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原文
機械翻訳 Google Translate (参考)
機械翻訳 DeepL (参考)
訳文1
訳文2
訳文2 申し送り付き

訳文1は原文の体裁そのままにただ訳しただけです。すごく読みづらいと思いませんか?その国や企業では普通に受け入れられる体裁なのかもしれませんが、参加して欲しいカンファレンスの参加登録先も文末にあってわかりづらいですね。実際、このような体裁の文面で日本の企業に送っても、読み手は若干のストレスを感じるのではないかなと思います。

そう感じて、私は実際のトライアルの際に、申し送りと共に訳文2のパターンも併せて提出しました。日本のビジネスレターでよく使われる表現を追記してはいますが、まず伝えたい情報を一か所に(開催内容・日時・登録方法等)まとめて、段落も一部変えています。

トライアルにしろ実際の翻訳案件にしろ、人によっては、ここまで口を出すのはやりすぎなのではという方もいらっしゃるかもしれませんが、用途を考えた時に、その目的を果たせない成果物を出すのもそれはそれでどうなのかなと思います。(いわゆるローカライズのアプローチを取り入れた方がいいのか、先方に尋ねてもいいと思います。)だからこそ、どうして訳文2も用意したのかという説明も含めて訳文1と2の両方を提出したわけですが。書いてある情報は同じです。情報を伝えようとするアプローチが異なるだけです。原文と併記で使うのなら訳文1でも十分でしょうが、原文と併記ではなく訳文だけを出すというのであれば、訳文2の方が読み手には伝わりやすいかと思います。使うかどうかは先方が決めることです。

(※訳文2はよくみる定型をイメージして構成していますが、申込方法はリンク先からとあるので、PDFで送るなら有効な体裁ですが、メール本文にただ入れて使用するだけなら、記・以上は不要、中央揃えの箇所は左揃えでも十分かとは思います)

渡す成果物を実際に読む他人が理解できるか。ビジネス文化的に取り入れた方がいい(または取り入れない方がいい)体裁・表現はあるか。私たち人間はそうした物事に対する“判断”ができます。人間翻訳は、こうしたある種の言語・文化コンサルティング的な役割も期待されているからこそ求められているのだと私は思います。機械翻訳は人間では到底無理な量でも瞬時に訳せる力がありますが、できても訳文1のようにただ書いてあることを訳すだけで、その先にある読み手のことを考えたアプローチは(現状)とれません(いつかできるようになるのかな…?)。前回の記事でも少し触れていますが、これも機械翻訳と人間翻訳とで活躍場面が異なる一例かなと思います。CATツールを使用して対応する案件だと、翻訳者は訳すだけでこうした体裁調整の機会がないことも多いのですが、“提案”はしても差し支えません。人間翻訳にこそできる付加価値です。今回はビジネスレター/メール文を取り上げていますが、そうした一見機械翻訳で十分そうなものでも、このように人間の一手間があるからこそよりブラッシュアップされたものを提供できることはあります。私に依頼してくださるお客様の中にはそうした一手間の提案に価値を見いだしてくださっている方もいるのだろうなと思います。あ、ちなみに記事ネタとなったトライアルはもちろん通りました(重要)。

一般ビジネス翻訳を軸に派生する話があるのですが、それはまた次回。

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