人間翻訳と機械翻訳 ― マーケティング翻訳を例に考える

昨年末頃、エッジ・トランスレーションの三浦由起子代表にお声がけいただき、とても面白いお手伝いをさせていただきました。ご本人が登壇するAAMT Online, 2021公募セッション発表用資料作成で人間翻訳例のご協力をするというものでした。

発表内容は、

  • 機械翻訳には使い方がある 

  →それを基にリスクを抑えつつスピード・効率を上げられる

  • 機械翻訳と人間翻訳はそれぞれに活躍場面(例:情報伝達/訴求)がある 

  →マスの取り合いをするものではなく、マス数自体を増やせる可能性。共存の道を選べる

  というもの。当日発表資料を公開されているので詳しくはこちらをどうぞ。

翻訳例は複数提供させていただいたのですが、そのすべてを公開するお時間はなかったということで、未使用のものについて許可をいただいたのでこちらのブログで発表させていただきます。

※以下、マーケティング翻訳例とありますが、一般向けの記事やIT系企業のブログなどの読み物系、経営層向けのレポート(事例)、ニュースリリース、販促資料、DMなどマーケティング翻訳に該当するものは多岐にわたります。ですので、これはあくまでそれに類するものから取り上げた一例にすぎません。

人間翻訳を考えてみる(マーケティング翻訳例)

原文:The beautiful pixel art was at the top of its class at the time and has lost nothing of its charm over the years.

(引用元:https://www.nintendo.com/en_CA/games/detail/clockwork-aquario-switch/

ざらっとした直訳:

当時最高の美しいピクセルアートは長い時を経てもその魅力を失っていません。

これを機械翻訳にかけた場合に出てくる例はこちらです。

① DeepL:

美しいピクセルアートは当時の最高水準であり、その魅力は何年経っても失われていません。

② Google Translate:

美しいピクセルアートは当時そのクラスのトップであり、何年にもわたってその魅力を失うことはありませんでした。

文引用元のウェブサイトは、約30年前のアーケードゲームがリバイバルされテレビゲームとしてリリースされたソフトを紹介しています。上記直訳か①/②だとなんだか淡々としてますよね。機械翻訳と直訳は似たり寄ったりな表現力で読む側としても、書いてある事実を伝えてるだけという印象。そこでここは人間翻訳の出番。マーケティング翻訳では、読み手に魅力を感じて欲しい、買ってみようかなという気持ちを搔き立てる訴求力ある文章で書こうとしたらどんな表現を提案できるでしょうか。

案1 

あくまでソースに忠実に、ただもう少し読みやすさ・自然さを意識

当時のドット絵アートの集大成。色鮮やかで美麗なグラフィックは二十何年という時を経てもその魅力を失っていません。

案2 

「絵の美しさ」を強調してみる

当時最高峰と言っても過言ではない美麗なドット絵アート。二十何年という長い時を経ても色褪せないグラフィックがプレイヤーを魅了します。

案3

かなり言い換えてもよいと言われた場合の自由翻訳

色褪せない、見惚れる美しさ。当時精魂込めて描きあげられた美麗なドット絵アートが二十何年という時を経てよみがえります。

見てわかる通り、伝えるポイントを少し変えるだけで、1つの原文からスタイルのまったく異なる文を何通りも考え出せます。個人的には案2や案3を読むと、「ほうどんなもんかしら」という気にはなるんじゃないかなと。案3はかなり思い切っているようにみえますが、実はこのゲーム作品について調査をすると、ここまでの事実がでてくる(この日本語文でさえ実は英語原文に集約されていることもありえる)ので、意訳しすぎとか「そんなこと書いてないじゃないか」というほどでもないのです。むしろ、クライアントによっては、案3以上にもっと自由な言い換えを求められることもあります。機械翻訳には、こうした言外のメッセージや、どんな風に伝えたいかといったクライアントの希望まで映し出すことはできません(ただここまでいくならクライアントからのこういう希望がある前提ですし、場合/相手先によっては申し送りないしBT(Back Translation)を出すこともあります)。無論、この3つもあくまで1文からみた例にすぎません。今回はお手伝いの中で1文を抜き出した例を挙げているので、本来は文章全体で考える必要があります。引用元の文章全体で訳していくと、前後の文脈から案1あたりの無難な感じに着地するかもしれませんし、あるいはもっと異なる表現(ただし、原文のメッセージを伝えるという点は押さえること)を提案できるかもしれません。これは人間翻訳ならではの技、機械翻訳の立ち入れない分野だと思います。

機械翻訳はとても便利なツールです。私はたとえば中国語ができないので、台湾旅行の時は重宝します(次は香港や上海、瀋陽とかに行きたいです!)。少しかじった韓国語やフランス語でも、日常会話を流ちょうにとまでは難しいので、出張時に何かと世話になっています。ただ、仕事で使う場合には、使い方が肝だなと思います(使い方についてかくかくしかじかは、是非冒頭の三浦さんの発表資料をご覧いただきたい)。また、求められるのが大意であって訳文にまったく精密さを求められないということであれば、いまや人間翻訳に依頼する必要はなく、無料の機械翻訳サービスで十分なこともあるでしょう。また、人間翻訳には人海戦術を取り入れた場合は別ですが1日にできる量には限界がありますから、時間的制約などの事情により、機械翻訳を使うことも一つの選択肢です。翻訳を必要とする人の求めるものは一様ではありませんので、機械翻訳を選択されること自体を否定する気もありません。とはいえ、私が仕事に機械翻訳を使うことは今のところありませんし(必要性がないし、むしろ手直しに余計に時間がかかり非効率)、人間翻訳例として先に挙げたような訴求力のある文をお求めのお客様には、是非Sprachgetriebe Consultingを頼っていただきたいなと思います。